上司のヒミツと私のウソ
 私はぼんやりと立ちつくし、佐藤部長の呑気な顔を思い出していた。

 人事部を離れてまだ一週間もたっていないのに、ひどく懐かしい。またコピー機に嫌われて、しょんぼりしていないだろうか。それに人事部のみんな。元気でやってるかな。

 つかのま感傷に浸っていると、目の前でエレベーターの扉が開いた。




 屋上に通じる南側の扉には、鍵がかかっていない。


 矢神と安田はそのことを知っていたんだとおもう。

 私に黙っていたことを気にしたのか、清掃のおばさんはバツが悪そうな顔をしていたけれど、それは仕方がない。そもそも屋上への出入りは禁止されているのだから。


 非常扉を押して屋上に出ると、案の定そこに矢神がいた。


 フェンスの向こうに広がる灰色の空を眺めている。白い煙が矢神の肩越しに流れてくる。こちらに背を向けているため私には気づいていない。


 私は声をかけるのをためらった。


 緊張していた。矢神には毎日会っているのに、なぜか久しぶりに会うような気分だ。

 突然、矢神がふりむいた。


 その顔を見たとたん、裏だとわかった。
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