SECRET LOVE
急降下


電話がなかなか繋がらなくて、私はSOUTHの宿泊するホテルの廻りをグルグルとしていた



どうしよう……



少し前に到着して、ウロウロとしていたけど、チラホラとファンらしき女の子やオバサンがいて、下手げに混ざると、
そのファン達に同化しそうで嫌だった




いや、だから、ファンみたいなモノなんですけど…



いつの間にかSOUTHと接する事で、自分はファンとは違う特別な人間だと、他人を見下すような感覚に陥っていた



そんな事は、SOUTHは望んじゃいないのに



そんな事を考えながら、余りしつこく電話を鳴らす事も出来ず、私はボーッとユンファからの折り返しを待っていた



春先だとはいえ、まだ夜風は冷たく、私は薄着で来てしまった事を後悔しながら、
相変わらず六本木の街を無駄にあてもなく徘徊していた



どこかカフェにでも入ろうかと、足を止めた瞬間




着メロの【trajectory】が流れ出した




急いで携帯を手にする



画面を確認し、ユンファの文字に、胸が踊る


「…もしもし?」


焦って声がふるえた



「…イクゥ?ゴメン、今もう少ししたら戻るから」

イクゥって、………もう、無理だな、これ……


少し笑いそうになったのを堪えて、私は


「…わかりました、待ってますから、大丈夫です」


そう事務的に返事をした


「……………」


黙り込むユンファに、


「………何か……?」



なんで?


「………いや、なんでも」



…………?なんでもなさそうだけど?




「…そうですか?じゃあ、後30分くらいしたら、伺いますね」



「……………そのくらいには、多分着いてる」



不機嫌そうにも聞こえたその返事に、


「わかりました」

私はそう返事をして電話を切った





何だか、違和感を感じた



まだ、数回しか会った事がないし、
違和感を感じるほど親しい訳でもない


でも、明らかにユンファの態度がひっかかる




何か、した?っけ…


何かするほど、絡みはないハズだけど…




私は首を傾げながらも
30分、という中途半端な時間をどうやって過ごそうかと、適当にブラブラと歩きながら考える



うー…ん…


お茶をするには、短すぎるしなぁ……



トボトボと歩いていると、目の前に本屋があった




スッと自然に足がその方向に向かう


漫画好きな私は、そのまままっしぐらに漫画コーナーに足を運んだ



最近バタバタしていて、新刊チェックを忘れていた、とウキウキで本を物色する

すっかり待ち時間も一瞬で過ぎ去り、



~♪~♪~♪


着メロが響いて、身体がビクッと震えた





やばっ


「…ヨボセヨ~」


ちょっと冗談まじりに出てみた







「………………遅い」

一段と不機嫌なユンファの声が響いた






………どうしてそんなに怒ってるんだ…



何なら待ちぼうけ喰らってたのは私の方なんだけど?



「…ごめんなさい」

すいません、というトコロを
ついうっかりごめんなさいと言ってしまった




「………今、ドコ?」

ユンファの怒りの篭った言葉に、
すっかりホテルから離れた場所にいた事に気付いた



「…ホテルから、ちょっと離れた本屋さんにいるんで、15分くらい、かかるかも…」


と、申し訳なく言った



「……………じゃあ、エレベーター前にいるから」


そう言うユンファに、



「あ、部屋までわかるから、大丈夫です」

そう返した



「迎えに行かないと、フロア入れないから」


冷たくピシャリと言われた



「…………ご、ごめんなさい…」


そっか、SPの人、いたもんな…


メンバーの泊まるフロアは、ファン達が入ってこないように、SPの人が見張りをしている



私は電話を切ったあと、駆け足でホテルに向かった






あんなに肌寒いと感じていたはずが、
小走りで息切れし、額にうっすらと汗が滲んで、暑くて仕方なかった


先ほどよりもファンと見られる女の子の数が増えていた


私はそれを横目にゆっくりとエレベーターへ向かって歩いた



チン


と、何とも言えない小さな音と共に
乗り込んだ高速エレベーターの扉が開いた




「…………ヒッ…」

思わず小さな声が漏れた



見たこともないくらいの形相で、ユンファが腕を組んで睨んで立っていたからだ



「……………遅い」






それ、さっきも聞きました…





怒り爆発、と言わんばかりに、ユンファの後ろ姿から怒りがにじみ溢れている



そんなに怒らんでもいいやん…


と、言ったら殺されそうだったので、黙ったまんま、今朝いた部屋にまた足を踏み入れる


昨日、今日の今日、で


三日連続ユンファに会っていた




今だに、まだ夢を見てるのでは?と、錯覚する





「あ、辻元さん~、いらっしゃい~」


いつもはうざったいくらいのソンミンの声が、何故か今は天使の囁きに聞こえた


「どうも…」

チラッとユンファを見てみたけれど、ムスッとしたまま、ソファにドスンと座り込んだ





…………………何故






ソンミンが、私の顔をみながら、口だけを動かす



「ね?機嫌悪いの」


と、言っているように見えた



私は目で合図をしてみたけれど、そんなアイコンタクトは何の意味もない


「あ、僕がいても邪魔だから、あっち行ってるね~」




………………オイ!!




ソンミンは舌をだしながら、サーッと部屋を出て行ってしまった





最悪――!!裏切り者!!



この空気のまま、打ち合わせとか超やりづらいんですがっ!!





渋々、ソファに腰掛けて、せっせと作ったコラージュ資料をテーブルに出した


カテゴリーごとに分けたコラージュは10種類の分野にわけ、



ユンファの目の前に広げた


「……………」


それに見向きもしないまま、ユンファの鬼のような視線が私に突き刺さる



何?


何でそんなに怒ってんの?


理由がわからない私は、段々と腹が立って来て、



「……………何ですか?

遅くなったのは、申し訳ないと思ってますけど…


そんなに怒らなくてもいいじゃないですか」






つい、言ってしまった








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