とけていく…
「雄介、ありがとね〜」

「真紀先輩のためですからっ」

(…何なんだよ、このやり取りはっ)

「ほら、涼も早く名前書けよ」

 雄介は自分が使ったボールペンを無理矢理涼に握らせた。

「はぁ?」

「お願いっ 描きたい子達が描けなくなっちゃうから、人助けだと思って…」

 すると今度は真紀は調子良く手を合わせて、懇願する。

「しょうがねーなー…」

 彼は、正直あまり納得はしていなかったが、ごねていても時間が無駄になると悟り、渋々名前を書いた。

「お、涼ってゆーのか…」

 書いてる側から彼女は仮入部届けを覗き込んでくる。すると、ふわりと真紀の髪からシャンプーの香りが漂ってくるのに気付くと、彼は急いで仮入部用紙を書き上げた。そしてそれを黙って彼女に押し付け、そそくさと間合いをとったのだった。

「ありがとね、涼」

 彼の態度を気にする様子もなく、真紀が礼を言いながら用紙を受け取り、満
面の笑みを浮かべているその顔を見た時、涼はふと頭の中でフラッシュバックが起こっていた。

< 12 / 213 >

この作品をシェア

pagetop