とけていく…
 ドアを開けると、カランカランと鈴の音が響く店内で、カウンターにはいつも通り、マスターがいた。

「いらっしゃい」

「…お久しぶりです」

 涼は軽く頭を下げた。

「なんか、飲むかい?」

 相変わらず穏やかに、そして優しく接してくれるマスターに涼は首を横に振った。

「真紀はいますか?」

「真紀は図書館に行くって言って出て行ったよ」

 グラスを磨きながらマスターは答えた。

「わかりました」

 お礼を言って、店を出ようとした時、「涼くん」とマスターに呼び止められると、彼は足を止めた。そして、振り返る。

「コンクール出るんだろ?」

 マスターの落ち着いた低い声に、涼は小さくうなずいた。

「そっか。正樹が息巻いてたよ。僕の言った通りだろ?」

 得意気にマスターは笑った。

(なるほど…)

 最初は理解できなかった涼だったが、マスターの考えは当たっていた。

『直感が働いたんじゃないかな、いろんな意味でライバルになるかもって』

 彼の脳裏にマスターの言葉が蘇っていた。

「悔いのないように」

 ガッツポーズを決めながらマスターが彼に言うと、涼は深くうなずいてから「…はい。」と答えた。そして、ドアを押し開け、外に踏み出した。



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