とけていく…
 綺麗に掃除をした後、持ってきた線香に火をつけて、手を合わせる。

「なかなか来れなくて、ごめん…」

 そのまましゃがみ込み、誰もいないこの墓地で、涼のつぶやきは散った。もっといろいろ話したかったはずなのに、言葉が出てこない。

 いつもそうだ。あんなに優しい顔で迎えてくれているのに、いざとなると何もできなくなってしまう…

 まだ、あなたを忘れられないそんな俺だけど、もう少しだけ、このままでいてもいいですか…

 彼が心の中でそう語りかけた時、それに答えるかのように、春の暖かい風が彼の髪を優しく撫でた。

「また、来るね」

 墓前でそう告げてから立ち上がったその時だった。

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