ジレンマ(仮)



美術準備室の前まで来ると、緊張しながら扉を開けた。

美術準備室は美術室の奥にあり、美術室じたい今は部活以外に使われる目的もないから、放課後までは誰も入れないらしい。

じゃあ何故、今入れるかというと、カケルが美術部の部長だから。
だからカケルが鍵を先生から預かっているらしい。

準備室の奥に目をやると、窓際に立っているカケルと目があった。



「そんな所に突っ立ってないで、こっちへおいで?」



優しい笑顔で手招きされる。

ダメだって分かっているのに、勝手に足がカケルの元に向かってしまう。



「沙月・・・」



優しい声が頭から降ってきた。
それと同時に、フワリと抱きしめられる。

胸が苦しくなった。

泣きたくなった。

でも泣けない・・・。



「沙月、キスしてもいい・・・?」


「・・・・・」



私は何も答えずに俯くだけ。

顎に手をやられ、ゆっくりと持ち上げられる。



「沙月・・・」



名前を呼ばれながら、ゆっくりと唇と唇が触れ合った。



「・・・っ・・・」



また、心が締め付けられる。

苦しい・・・。

もうこんな関係になって、半年くらい経つ。

何故こうなってしまったのか、今ではあまり思い出せない。



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