ジレンマ(仮)
「沙月・・・」
何度も、何度も、軽く触れ合うだけのキスをされる。
だけど、これはいつもの事。
毎日ここに来ては、こんな事の繰り返し。
「沙月・・・ちょっとだけ、このままで・・・」
言いながら私を少し強く抱きしめるカケル。
これもいつもの事。
私は何も言わない。
何も、言えない・・・。
カケルに抱きしめられている腕が少し痛い。
心がすごく痛い。
この大勢だから、私の顔が見られる事がないのが唯一の救い。
こんな顔、見せられない。
多分、今にも泣き出しそうな顔をしながら、すごく嬉しい気持ちも顔に出ている。
すごく醜い顔。
私はカケルが好き。
だけど、カケルは私が好きな訳じゃない。
カケルにはちゃんと好きな人がいて、その人とはもうちゃんと付き合っている。
なのに私にこんな事をする。
どの位時間が立っただろうか。
永遠に感じられたこの時間も10分となかった。
今は2人で床に座って、お話タイム。
「・・・千絵さんとはどうなの?」
千絵さんとは、カケルの付き合っている5つ年上の彼女さん。
私も自分の傷をえぐる様な質問しなきゃいいのに・・・。
「すごく幸せだよ」
「・・・そっか・・・」
「うん」
カケルが本当に幸せそうに言うもんだから、いつもよりもっと心が痛んだ。
じゃあなんでこんな事しているの?