202号室の、お兄さん☆【完】
「寝た?」
縁側の柱に、岳理さんは背をもたれ、私と、私の膝に眠っているお兄さんを眺めています。
「寝ました」
サラサラの髪を撫でながら私が言うと、岳理さんは溜め息を吐きました。
「……俺ん時より早ぇーよ」
そう言って、煙草を取り出して火をつけました。
「岳理さんは、……優しいですね」
そう言うと、返答はありませんでした。
空目掛けて、煙草の煙を吐く姿だけが良く映えます。
「花忘荘から、……いいえ、私の隣からお兄さんを此処へ連れ出してくれたのは、これの為だったんですね。
岳理さんは、お兄さんが毎夜毎夜、フラッシュバックで苦しむって予想してたんですね」
そう言うと、やっと観念したのか、私をチラリと見ました。
「予想してた。けど、俺だけで何とかなると思ってた」
そう言って、苦しそうな表情を浮かべました。
「……千景ちゃんに嘘を吐かせたのも、岳理さんですよね」
「っち。バレたのか」
悔しそうに、髪をかきあげますが、……千景ちゃんが嘘が苦手で良かったです。
「本当に、岳理さんの優しさは、分かりにくいです」