プラスティック・ラブ

ああ、まただ。
またそんな風に私を見るから・・・
もしかしたら、なんて淡い期待を抱いて
胸をときめかせてしまうのは、これで何度目になるだろう。
勇人には他に想う人がいると嫌というほど分かっているというのに
愚かで浅ましい思いはこの時になっても
往生際悪く心の奥で燻っている。


「俺も 楽しかった」

「ほんと?」

「ああ。いい思い出ができた」


いい思い出。その一言に私は思い知らされた。
彼にとって私との時間は文化祭や修学旅行と同じに
学生時代の楽しかった思い出の中の一つにすぎないのだと。
青春という名のアルバムに、数ある写真の中の
ともすれば他のものと重なって
見落としてしまうかもしれないような・・・
そんな存在感の薄い一枚。
それはもう二度と開いてみることの無いページに収まり
色褪せて忘れられてしまうだけなのだ。


決して特別な一枚になることはない。


分かっていた。分かっていたことだけど
これが偽りの恋人を演じてきた私達の
当然で分かりきっていた結末とはいえ
「お疲れ様」と笑って何でもない元の二人に戻ることなんて
今の私にはできない。
ひとりでひっそり抱えていた思いは
その容量を越えて今にも溢れ出してしまいそうだというのに。


「私は」と答えた声を震わせた涙が
握手をしたままで重なっている彼の手の上に落ちた。


「藤崎?」

「・・・楽しかったけど辛かった」

「・・・・・・」

「嬉しかったけど苦しかった」

「・・・・・・」

「私、成瀬くんが本当に好・・・」

「藤崎!」


勇人は重なっていた手を引き、私の頭を強く自分の肩口に押しつけた。
まるで それ以上は言わせない、言うな とでも言うように、強く強く。
そのせいで見ることはできないけれど
優しいこの人が今どんな表情をしているのか想像がついた。
私の思いが、思う人を苦しめるだなんて。
それを言葉にすることさえ許されないなんて。
あまりにも悲しくてあまりにも惨めだ。


「ごめん・・・」と小さく呟やかれた彼の一言に改めて思い知った。



初恋は実らないのだと。

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