プラスティック・ラブ
ベッドの対角にあるドアの側の背の高い間接照明だけを灯すのが
恥かしいから明かりを消して、という彩夏と
彼女の表情が見えない暗闇が嫌いな俺との妥協点。



照明からの距離が作り出す光のグラデーションの
一番彩度の低い仄かな光に白く浮かび上がる
くびれた滑らかなラインを撫でながら、耳下腺から喉元へ舌先を這わす。



いつもならここで甘い喘ぎを散らすはずなのに、と顔を上げれば
すやすやと寝息をたてる彩夏の穏やかな寝顔。




「まーったく。これからっていう時に」




彼女の頬をぺちぺち、とそっと叩いてみたけれど目覚める気配はまるでない。
たった2杯のワインが疲労と相まって強力な睡眠導入剤になってしまったらしい。
あまりにつれない恋人に仕返しするべく、薄い上掛けを一気に剥いで
文字通り一糸纏わぬその身体の肩先から順に口づける。



触れないところがないように隈なく 愛しんで愛しんで愛しんで・・・



胸元と内股には俺の印が鮮明に残るように熱く強く吸い上げる。
他の誰の目に触れなくていい。彩夏ひとりがそれを見て思えばいい。
自分は俺のものなのだと。俺以外の他の誰にもその身を委ねる事は許されないのだと。
何度も何度も二度と消えない跡のように意識に刻み込めばいい。


そうして・・・忘れさせない。
いや、忘れないでくれと縋るような気持ちでいる自分が情けなくて浅ましいと思う。
でもどうしても消し去ることのできない一抹の不安に煽られる。
愛し合う実感がないワケじゃないのに、身体を重ね心を沿わせても感じてしまうそれは
ただの取り越し苦労なのか?



彩夏。お前の心にも・・・
こうして目に見える印を付けられたらどんなにかいいだろう。



彼女の身をパジャマの上着で包み胸元に抱き寄せて
額におやすみのキスをして固く眼を閉じた。




頼むからどこにも行くなよ・・・

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