プラスティック・ラブ

放課後に勇人とふたりで職員室から生徒会室へ戻る途中
通りかかった教室から私の名前が漏れ聞こえてきた。
立ち聞きをするつもりはなかったしそういう事も好まないけれど
自分の事を言われているのだとしたら話は違ってくる。
もしそれで聞き耳を立てないでいられるとしたら、その人は奇特な人だ。


私は思わず立ち止まった。


『藤崎ってさ、顔は取り立ててどうってことないけど
カラダは結構イイ線いってるよな』

『胸とか案外 デカいよな。でも腰は細いし足首も締まってる。
ああいうカラダ、俺好みv』

『運動して鍛えてるコは、あっちの締りもいいって言うからな』



とまぁ、その後に続く会話は口にするのも憚られる
当事者として聞くには まるで楽しくない話に深いため息が出てしまった。
でも噂なんてそんなものだ。勝手で無責任な想像に腹を立てても仕方ない。



『でもさ 藤崎って成瀬とやってるんだよな』

『マジで?!』

『あいつら、しょっちゅう二人で生徒会室にいるじゃん?そん時じゃね?』


やれやれ・・・と私は小さなため息をついた。


私と成瀬の関係はただ生徒会の役員というだけなのに
そのシチュエーションにあらぬ妄想を好き勝手に膨らませてしまう輩もいるらしい。


そんなのにいちいち目くじら立てても疲れるだけだ。
会長と副会長、委員長と副委員長、同じ部活の男子部女子部の
キャプテン同士なんて組み合わせはその手の噂になりやすいもの。
言いたい人には言わせておけばいいと思っているのは
勇人も同じだと思っていたのに
その一言に反射的に教室のドアに手をかけたのは勇人で
それを制したのは私だった。


あまり瞬間的に感情を露にするタイプではない彼にしては珍しく
唇を噛んだ表情にも握り締めた拳にも「怒」の感情が見て取れる。
グラウンドを100周 走らせるくらいの制裁を与えないとも限らない。


そんなに私との噂が気に入らなかったのかと思わなくもなかったけれど
それよりも女子である私に対する気遣いと思いやりから
厳しく注意をするつもりだったのだろう。勇人はそういう人だ。


でもこの手の噂話というのは反論したところで火に油を注ぐだけ。
否定すればするほど煽られ囃される。構わず放っておけばよいのだと
勇人に目で伝えてその場を通り過ぎた。



まぁ・・・噂になる相手が勇人なら
ソレも結構悪くないなと思っていたのも事実だけれど。


だからと言って勇人を恋愛の対象として好きか?と問われても
よくわからない、というのが本音だった。


勇人と親しくなったのは、お互い副部長に抜擢された一年生の後半。
初めて出席した部長会がきっかけだった。


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