☆マリッジ☆リングス☆
「痛いっ・・・」さゆりは夜中に絶叫する。

「おっ・・・大丈夫か?なんの騒ぎだよ。」

「ねえ・・・産まれるかも。」

「びょ・・・病院・・・電話する」

冬の真夜中は体の芯から冷える。でも、冬の出産に備えて、さゆりは準備していた。

「あっ・・・また来た・・・」

1時間おきの陣痛はその波も一定で

痛みが引いた時を見計らってさゆりは聡にあれこれ指示する。

「このかばんと、コート、お願い」

もはや立って歩けないさゆりはおしりをつけたままそーっと進む。

「タクシーきたぞ」聡はタクシーまでさゆりを抱え

2人は病院へ向かった。

「大丈夫か・・・もうすぐだ。」

「う・・・うん」

タクシーの運転手もこの緊迫した状況に必死に車を走らせる。

陣痛の波は車内でも起き

「あ・・・あう・・っ」

さゆりは痛さを声で発散させる。

深い深呼吸はいいって勉強会でも習った。

「ふーーふーー」さゆりはこんな中でも冷静に深呼吸で呼吸を整える。

「お――着いた、着いた」

さゆりの手を握る聡の手はとても冷たい。

「あなた・・・大丈夫?」さゆりは聡の緊張感を感じていて・・・

「お父さんはこちらへ」

病院では聡もお父さんと呼ばれ、看護師からの指示をあおっていた。

「立ち会いですよね?」

「はい」

「頑張りましょう」

現れたのはさゆりの担当医。女医の佐々木。

「先生・・・」さゆりは佐々木を見るなり、泣きだした。

「ようやくですね。ここまで頑張ってきたんですから、大丈夫」

「はい・・・でも痛いし・・怖い・・・」

さゆりは泣きながらも、この出産の尋常ではない世界に圧倒されていて

「赤ちゃん・・・欲しかったんでしょ。お母さんになるんですよ。」

佐々木の温かい言葉に

さゆりはハッとして、正気を取り戻した。

「先生・・・お願いします。」

「もうすぐですよ・・・」

佐々木の呼吸に合わせてさゆりも力む。

「お父さんも励ましてあげてください!!」

聡もしっかりとさゆりの手を握りじっと見つめた。

「頑張れ。さゆり・・・」聡は父親として精一杯さゆりを見守った。

朝5時を迎えるころ・・・

病室はさゆりのうめき声と佐々木の励まし

さゆりはこれまでにない痛みを感じたと思ったと同時に

佐々木は子供を取り上げた。

一瞬のことだが・・・

次の瞬間

「おぎゃーーー」

なんともけたたましく、その産声は室内を響かせた。
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