お茶の香りのパイロット
そういって話しかけてきたのはリアンティル医師だった。


「私、自称婚約者っていう男性と一夜をともにしてしまったみたいなんですけど、ぜんぜん記憶がないんです。
記憶がないっていうか・・・全部夢に思えたというか・・・私が自分がいったい何を口走って、何を求めたかもぜんぜん記憶がないのが悔しくて。

それがレイプされたのではなかったらなんといえばいいのでしょう?
薬か魔法か・・・何らかの方法で私は普通ではなかったのです。
それに、私はこの土地に来る前に、心から好きな人と愛し合っていました。

でも、その人とは内乱中に離れてしまって連絡もできていないんです。
愛するその人に何て言えばいいのでしょう。何て謝れば・・・。
私はきっと節操のない女だと思われてしまいます。」


そういってフィアは泣き出してしまった。
すると、リアンティルはフィアにハンカチを差し出して尋ねた。


「自称婚約者っていう男性はあなたをレイプ目的で誘拐したんですか?」


「違うと思います。会ったときは敵のロボットの攻撃から私を守ってくれて・・・お礼を述べたくらいです。」


「その人はあなたの直観的に見て悪人だと思われますか?」


「いいえ。ときどき乱暴な口調にはなるけれど、悪人とは思えなくて。
だけど・・・いくらいい人だとしても、愛してもいない相手に嫁にするって宣言してその日の夜に酔っぱらってもいないのにセックスを強要するなんて・・・。

乱暴に扱われたのではないかって・・・私・・・ここに来たんです。」


「乱暴なことはされていません。
あなたにとって、ここでの生活もその男性のこともまだ皆無なのでしょう?

愛している方の彼とも連絡ができないのなら、あなたの今置かれている状況でできることをやるしかないとは思えませんか?」


「確かにそうなんでしょうけど・・・。そんな簡単に切り替えなんてできません。」


「そうですね。けれど、わからないことを知っていって、切り替えざるを得なくなるかもしれないし、助けがくるかもしれないし、もっとひどいことになるかもしれないし・・・未来は誰にもわからない。
とくに、まだ落ち着かないこの世界では絶対安全なところなど、ないかもしれない。

落ち着いて子どもを産んで育てる場所が早くきてほしいものです。
子どもは未来を担い、女性はその子どもを産んでくれる尊い存在です。」



「先生の戦争なんですね。」


「えっ?」


「女性の検診や出産に携わることです。」


「そうですね。僕は自分で産むことはできませんから、人が増える手助けをするだけです。
大きな戦争の後、いろんな村が個別に襲われて、たくさんの若い女性がレイプや犯罪を受けました。
そんな中で産まれてはいけない子どもたちもたくさんとりあげました。

産んで捨てて行った母親も多かった。
それでも、施設送りになるってわかっている子どもでも生きていれば幸せになる機会だって与えられるはずだと信じて仕事を続けてきました。

生まれた子どもに罪はないって言うじゃありませんか。
未来を信じるしかありませんがね・・・。」


「未来を信じるしかない・・・そうですね。
めそめそしているだけじゃ、だめですね。

先生、お話してくださってありがとうございました。」



フィアはルイリードに疑問をぶつけていこうと思いながら帰宅した。


「おかえり・・・遅かったな。」


ルイリードは何事もなかったようなケロっとした顔をして、お茶を入れる用意をした。


「ねえ、初めてしゃべったときも思ったんだけど、いつもそうやって誰かにお茶をいれて出すの?」


「いや、気が向いたときだけだな。
今、いれてるのは、前にいれたときに、君がこのお茶の香りを気に入ったみたいだったからかな。」


「そう・・・そのお茶はね・・・」


「アルミスがよくいれてくれたものだろう?」


「どうして・・・?」


「ごめん、今は言えないんだ・・・そのうち話すときが来たら・・・じゃだめかな。」


「そう。じゃ、そのときでいいわ。」


「やけにあっさり引き下がるんだな。
もっと俺にたくさんききたいことがあるんじゃなかったのか?

夜どうやって眠ったのか・・・とか。
どうして朝は裸で寝てたのか・・・とか。」


「もういいわ。」


「大切なことだろ!どうしてもういいんだよ!」
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