お茶の香りのパイロット
アルミスはかろうじて脱出ポッドで脱出し、ナオヤに拾われたが、放心状態でかたまっていた。


「アルミス!!しっかりしろ。
おい、アルミス!・・・反応してくれ、頼むっ!」


「私は・・・ラーガを・・・フィアを・・・守れない。
ううっ、ラーガが・・・粉々になってしまった。
私が殺してしまったんだ・・・。」


「しっかりしてくれよ、あなたがそんな弱気になってしまったら・・・俺たちは誰を頼りにがんばったらいいんだよ。」



「負けたんです。私にはもう出せる知恵はないんです。
フィアにも愛想をつかされたような、弱いヤツです。」



「バカやろーーー!今日は仕方ないけどな、明日までには嘘でも立ち上がれ!
おまえは死ななかった。それだけでも強運だ。

何度も戦ってきて、1回も負けることがないとでも思ってたのか?
そんなに自分は絶対とでも思ってたのか?

世界をよくしようと思ってるやつはあんただけじゃないんだ!
能力や実力がなくても、みんなできる限り努力してるやつはいっぱいいる。
俺だって、おまえほど賢くはないけどな、俺が守れる限りはがんばってるつもりなんだからな!」



「ナオヤ・・・俺だってがんばったさ・・・だけど勝てない相手には勝てない。
それでも・・・あきらめきれないんだ!
あきらめられないんだよ。ラーガも・・・フィアも・・・傍に居てほしいんだ。
傍にいてくれたら、他に何もいらないと思うものがなくなるなんて・・・どうしてなんだよ。」



「アルミス・・・。」




一方、ラーガの残骸を集めて持ち帰ったルイリードはフィアに怒鳴られていた。


「なんでアルミスにきちんと説明しないの!
本当は、倒したり、突き放したりする気なんてないんでしょ。

どうして、あんなひどいことをするの?
アルミスが・・・きっとアルミスは・・・絶望してるわ。」


「うるさい・・・。
文句をいう暇があるなら、ラーガの声を聴け。」



「えっ!ラーガは生きているの?
こんなにバラバラなのに、ラーガは大丈夫だというの?」



「俺には魔力があると言ったろう。
やらなきゃならないことはたくさんあるんだ。
君に手伝ってもらわなきゃ、時間がない・・・頼むから・・・。
アルミスだって大丈夫・・・俺が何とかするから、信じてくれ。」



「ルイ・・・ごめんなさい。
(私、気が動転してアルミスの心配してしまって。
時間がないのはルイの方なのに・・・。
何をしようとしてるのかは話してくれないけれど、信じてなきゃ。)

あなたを信じます。・・・でラーガはどこにいるの?」



「さあ、どこにいるのかな?
セイ、おまえの欠片を少し使わせてもらう間、しばらく眠っていてもらうよ。」



「了解です。」



セイリールの胸のパーツをはずして、そこにルイリードは手を少しナイフで切って自分の血をふりかけていった。
そして、その上に重ねるようにしてラーガの残骸を乗せると、シューッという白い煙があがり、青く四角い金属の塊の姿になった。


「ああ・・・ここはどこだ?」


「その声はラーガね。」


「ん?フィアか・・・アルミスはどこだ?」


「アルミスはここにはいないの。
あなたはセイリールとの戦闘で負けたのよ。
壊したのは、私。痛かったでしょ、ごめんなさい。」


「ロボットに痛いはわからない。
俺は生まれる前の姿にもどったのだな。
そして、新しいマスターが起こしてくれた。」



「うまく目覚められたようだな、ラーガ。
俺が新しいマスターのルイリードだ。

だが、君とともに俺は戦うことはないと思う。
君は今、俺が君に施した処置と同じことをアルミスがした後に、セイリールの力を吸収してアルミスと最後の敵と戦うことになるだろう。」



「おまえ・・・死ぬ気なのか?」


「ふふっ、ロボットとしての動きは鈍かったくせに、頭脳は優秀なんだな。
俺は死ぬ気はないつもりなんだが、命の方が持たない体なんだ。

そこで君に頼みがある。
セイリールに積み込んでおくから、俺たちの戦闘データをすべて記憶するんだ。
そして、俺とセイリールが粉々に吹っ飛んでしまったら、君がセイリールの欠片を吸い込めるだけ吸い込んでアルミスのところへ行け。」



「おまえは・・・おまえの血は・・・。」



「おっと、俺の血はうまかったろ。
あ、フィア・・・すまないが、血を使ったら喉が渇いた。
軽い食事と飲み物を用意してくれないかな。」


「ええ、何か作ってくるわね。」


「ああ頼むよ。・・・・・ラーガ、それはまだアルミスも知らないことなんだ。
だから、フィアにもアルミスにもまだ言わないでほしい。」


「アルミスと同じ血を持っているのは、アルミスと兄弟だからなのだと言ってはいけない?」


「そうだ。アルミスは記憶を封印されている。
然るべき時がきたら、俺があいつ自身の封印を解かせてやるから、それまで何もいわないでくれ。」
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