それでも、課長が好きなんです!
そろそろ始業時間を知らせるチャイムが鳴る頃だ。
背筋を伸ばすと背後を女子社員が小声で会話をしながら、興奮した様子で通り過ぎて行った。
「あの、なんか今日社内が騒がしくないです?何かあったんですか?」
「あれ?瀬尾ちゃん知らないの?」
先輩の知らないの?の言葉に黙って頷いた。
「どうやらあの綾川京子が、オフィスに来ているらしいよ」
「……えっ!なぜ」
「さぁ、理由はわからないけれど旦那さんがうちの社長だしね?あり得ることだけろうけど、珍しいよね。今まで一度もなかったんじゃないかな」
女優が今同じビル内に居るというだけでわくわくとした興奮を覚える。
わたしの様子を見て先輩が「瀬尾ちゃんは綾川京子好きなの?」と質問をした。
「好き……ってほどではないですけど、五十過ぎてのあの美貌はすごいと思います。生で見てみたいというか……!」
「あはは、瀬尾ちゃんらしいね」
「先輩はどうなんですか?」
「わたしは好き。あの人って歳がいってからブレイクしてるじゃない。長い下積みを経た苦労人だから応援したくなるし」
「へぇ、そうだったんだ……」
「ブレイクになったきっかけの映画で大胆なラブシーンがあったじゃない?素敵だったよねー」
「……はぁ」
「脱いで売れたみたいに言う人もいるみたいだけど、わたしはそうは思わなくて……」
スイッチが入ってしまった先輩はキラキラと目を輝かせて綾川京子の魅力について語っている。
有名な女優さんだということは知っているけど、詳しいことは何も知らないや。
うん、自分がミーハーだという自覚はあるの。
卓上カレンダーを手に取る。
並んでいる綾川京子と柏木佑輔って、たしか血の繋がらない親子なんだよね。
新商品が出たばかりの頃、一時期ワイドショーが騒いでいた。親子初共演って。
おかげで商品は大ヒット。
当の本人、柏木佑輔は何ら変わった様子もなくわたしの前に現れていたけど。
……今思えば、騒がれている時期にフラフラ一般人の女と一緒にいるなんて芸能人の自覚が足りない気がする。
今度現れたら絶対に帰ってもらうんだから。
「演技での柏木佑輔との共演もいつか見てみたいなー瀬尾ちゃんはどう?」
「んー……、でも佑輔君は」
「……え?」
柏木佑輔は綾川京子とは歳が離れてるから共演するとしても親子役になっちゃうのかな、どうせならドキドキするような禁断の恋愛劇が見たい……そう、言おうとした。
「もしかして、瀬尾ちゃんも柏木佑輔のファンなの?」
小声の先輩の問いかけに首を横に振る。
しまった、うっかり「佑輔君」なんて呼んでしまった。
こっ、これにはワケが……!
「佑輔君がどうかしたのかしら……?」
恐ろしく響く低音ボイスに背筋が凍りつく。
村雨さんがわたしを説教するときよりも恐い形相で、腕を組みわたしを見下ろしていた。
なんで怒るの!?
わたしは、別に……!
「もう始業のチャイムは鳴ったのよ、いつまで話し……」
「わたしは、柏木佑輔のこと全然好きじゃないんで!!」
シンとチーム内の空気が凍りつく。いや、フロア内全体が凍りついたかもしれない。
「わたしは、柏木佑輔のこと~」の「は」の部分を強調してしまった。
チーム内では暗黙の了解で村雨さんが柏木佑輔のファンだと言うことは黙っている状況だというのに。
村雨さんが怒っていたのは、ただ仕事の時間が始まっているのにいつまでも気がつかずにしゃべっていたからだ。
わたしは見事に自爆した。
背筋を伸ばすと背後を女子社員が小声で会話をしながら、興奮した様子で通り過ぎて行った。
「あの、なんか今日社内が騒がしくないです?何かあったんですか?」
「あれ?瀬尾ちゃん知らないの?」
先輩の知らないの?の言葉に黙って頷いた。
「どうやらあの綾川京子が、オフィスに来ているらしいよ」
「……えっ!なぜ」
「さぁ、理由はわからないけれど旦那さんがうちの社長だしね?あり得ることだけろうけど、珍しいよね。今まで一度もなかったんじゃないかな」
女優が今同じビル内に居るというだけでわくわくとした興奮を覚える。
わたしの様子を見て先輩が「瀬尾ちゃんは綾川京子好きなの?」と質問をした。
「好き……ってほどではないですけど、五十過ぎてのあの美貌はすごいと思います。生で見てみたいというか……!」
「あはは、瀬尾ちゃんらしいね」
「先輩はどうなんですか?」
「わたしは好き。あの人って歳がいってからブレイクしてるじゃない。長い下積みを経た苦労人だから応援したくなるし」
「へぇ、そうだったんだ……」
「ブレイクになったきっかけの映画で大胆なラブシーンがあったじゃない?素敵だったよねー」
「……はぁ」
「脱いで売れたみたいに言う人もいるみたいだけど、わたしはそうは思わなくて……」
スイッチが入ってしまった先輩はキラキラと目を輝かせて綾川京子の魅力について語っている。
有名な女優さんだということは知っているけど、詳しいことは何も知らないや。
うん、自分がミーハーだという自覚はあるの。
卓上カレンダーを手に取る。
並んでいる綾川京子と柏木佑輔って、たしか血の繋がらない親子なんだよね。
新商品が出たばかりの頃、一時期ワイドショーが騒いでいた。親子初共演って。
おかげで商品は大ヒット。
当の本人、柏木佑輔は何ら変わった様子もなくわたしの前に現れていたけど。
……今思えば、騒がれている時期にフラフラ一般人の女と一緒にいるなんて芸能人の自覚が足りない気がする。
今度現れたら絶対に帰ってもらうんだから。
「演技での柏木佑輔との共演もいつか見てみたいなー瀬尾ちゃんはどう?」
「んー……、でも佑輔君は」
「……え?」
柏木佑輔は綾川京子とは歳が離れてるから共演するとしても親子役になっちゃうのかな、どうせならドキドキするような禁断の恋愛劇が見たい……そう、言おうとした。
「もしかして、瀬尾ちゃんも柏木佑輔のファンなの?」
小声の先輩の問いかけに首を横に振る。
しまった、うっかり「佑輔君」なんて呼んでしまった。
こっ、これにはワケが……!
「佑輔君がどうかしたのかしら……?」
恐ろしく響く低音ボイスに背筋が凍りつく。
村雨さんがわたしを説教するときよりも恐い形相で、腕を組みわたしを見下ろしていた。
なんで怒るの!?
わたしは、別に……!
「もう始業のチャイムは鳴ったのよ、いつまで話し……」
「わたしは、柏木佑輔のこと全然好きじゃないんで!!」
シンとチーム内の空気が凍りつく。いや、フロア内全体が凍りついたかもしれない。
「わたしは、柏木佑輔のこと~」の「は」の部分を強調してしまった。
チーム内では暗黙の了解で村雨さんが柏木佑輔のファンだと言うことは黙っている状況だというのに。
村雨さんが怒っていたのは、ただ仕事の時間が始まっているのにいつまでも気がつかずにしゃべっていたからだ。
わたしは見事に自爆した。