助手席にピアス
「そのことも含めて話がある」
「……はい」
私は残りのコーヒーを喉に流し込むと、エプロンと三角巾を外す。そして桜田さんの後に続いて厨房を出ると、裏のガレージに停めてあるバンに乗り込んだ。
「お前、会社が休みの土日祝と俺の店に来るつもりか?」
「はい。そのつもりですけど」
発進したバンの中で、ためらいなく返事をする。
「いつ休むんだ?」
「まあ、適当に」
私の返事を聞いた桜田さんは、ハンドルを握ったまま黙り込んでしまった。会話が途切れた車内には、ラジオのBGMが静かに流れる。
車の振動は、今日、初めての売り場を体験して疲れていた私にとって、まるでゆりかごのよう。次第に心地よくなり、思わず瞼が閉じかけた。
「毎週日曜の午後に店に来い」
閉じかけていた瞼が、パチリと音を立てて開く。
「日曜日の午後?」
「ああ。ケーキ作りの感を取り戻すには、週イチで厨房に立てば充分だろ」
もしかしたら桜田さんは平日も休日も働きづめになる、私の身体を気遣ってくれているのかもしれない。
『アイツ、無愛想だけど、根はいいヤツだから』と朔ちゃんが言っていた言葉が頭に浮かぶ。
「桜田さんって優しいですね」
「俺が、優しい?」
「そう。桜田さんは照れ屋ですごく優しい人……」
クスクスと笑いながらハンドルを握る桜田さんの横顔を見つめる。すると有り得ないほど耳が真っ赤に染まっていた。