助手席にピアス

桜田さんは毎週日曜日の午後に、店に来ればいいと言った。けれど、その言葉を無視した私は、次の日の日曜日の朝もガトー・桜の扉を叩いた。

手荒く扉を叩いているとカチャリと開錠される音が響き、扉が細く開く。そこには昨日と同じように、切れ長の瞳を大きく開き、驚きの表情を浮かべた桜田さんの姿があった。

「おはようございます」と挨拶をしながら桜田さんの脇をするりと通り抜ける。そして店内に入ると、赤いギンガムチェックのエプロンと三角巾を素早く身に着けた。

昨日と同じ行動をとる私に向かって、桜田さんはあきれ顔を見せる。

「お前って結構、頑固なんだな」

「そうですか? そんなこと初めて言われました」

桜田さんが私を気遣ってくれたことは、とてもうれしかった。でも私は、少しでも桜田さんの役に立ちたいのだ。

桜田さんは大きなため息をついたものの、私に背中を向けると無言のまま厨房に戻って行く。その行動を肯定と受け取った私は小さく鼻歌を歌いながら、掃除を開始するためにモップを手にした。




「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」は、昨日よりスムーズに言えるようになった。でも笑顔はまだ引きつるし、オーダーされたケーキを箱に入れるのも手こずってしまう。

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