助手席にピアス
まだまだ接客に不慣れな私が、今日もひとりで売り場を担当できるはずもなく、昨日に引き続き桜田さんと一緒にケーキを売り終え、午後を迎えた。
昨日は後片づけもせずに帰ったけれど、今日は桜田さんの指示に従い、ショーケースの拭き掃除をする。すると、どこからともなく、いい匂いが漂ってきた。
ケーキの甘い香りを打ち消す純和風の匂いに惹かれた私は、その正体をつきとめるべく足を進める。鼻をワンコのようにクンクンさせた私が辿り着いたのは、厨房。
「おい。昼めしにするぞ」
「え?」
「腹減ったろ? 座って食え」
すでに厨房にはパイプ椅子が置かれ、作業台の上には出し汁の香りを漂わせている丼が眩しい光を放っていた。
「これ、桜田さんが私のために?」
「お前のためじゃない。俺の昼めしのついでだ。勘違いするな」
いかにも照れ屋な桜田さんらしい言い訳だと思いつつ、素直にパイプ椅子に座る。そして「いだだきます」と声をハモらせると、桜田さん彼が作ってくれた親子丼を口に運んだ。
「んっ! おいしい! 桜田さんってケーキだけじゃなくて、お料理も上手なんですね!」
「親子丼ぐらい誰でも作れるだろ」
桜田さんが作ってくれた親子丼は、まさに“ふわとろ”という表現がぴったり。
「ううん! この卵の半熟具合と、味つけが絶妙!」
「大袈裟な奴だな」
ぶっきらぼうな返事をするくせに、耳は真っ赤に染まっている。些細な褒め言葉で、ここまで照れる桜田さんがおかしくて、ほっこりしながら親子丼を味わった。