助手席にピアス
「私、数か月前に彼氏にフラれたんです。だから明日のイヴもお手伝いに行きます」
「そうか。助かる」
「あの……桜田さんは、クリスマスイヴに奥さんと会わないんですか?」
私の質問が終わるのと同時に信号が赤になった。静か停車した車内は水を打ったように、しんと静まり返り、なんとも居心地が悪い。
今になって、変なことを聞いてしまったことを後悔した。
その時、桜田さんはハンドルの上部を両手で握り、顔を隠すように手の甲に額をつけた。
「クリスマスイヴだけでなく、俺はいつだってアイツに会いたいと思っているんだ……」
ポツリと呟かれた声が、波紋となって私の心に響き渡る。
いつも不愛想な桜田さんに、こんな情熱的な一面があったことに驚き、そして別居している奥さんに対してモヤモヤとした感情を抱いた。
この感情をなんと呼ぶのか、私は知っている。
これは、嫉妬……。
桜田さんにこんなに想われている奥さんに、私は嫉妬しているんだ……。
でも、どうして名前も顔も知らない奥さんに嫉妬するの?
自分でも理解できない感情に戸惑いつつも、平静を装った。
「どうして別居しているのかわからないですけど、プレゼントを持って謝りに行けば、きっと奥さんも許してくれますよ」
「……そうか?」
「はい。きっと」
ハンドルから顔を上げた桜田さんは助手席の私の顔を見つめると、フッと小さく微笑む。
その寂しく物悲しげな桜田さんの表情を見たら、胸がチクリとした。