助手席にピアス

「今はトロトロ玉子のふんわりオムライスが主流らしいが、俺はしっかりと焼かれた玉子生地に包まれた、この店の昔ながらのオムライスが好きなんだ」

「へえ、そうなんですか」

「ああ」

桜田さんはオムライスをオーダーすると、イスの背もたれに深くもたれかかった。

「アイツも……早百合(さゆり)も、この店のオムライスが好きでな」

「早百合、さん?」

「ああ。早百合は俺の嫁の名前だ」

桜田さんの奥さんの名前を聞いた途端、私の心臓がドキリと跳ね上がる。

今まで桜田さんに別居している奥さんのことを、何度も聞こうとした。けれど不倫をしている事実を認めることが怖くて、真実を知るのを避けていた。

でももう、真実から目を逸らしていてはいけない。

自分の気持ちを桜田さんに正直に打ち明けるためにも、すべてを知り、すべてを受け入れなければいけない。そう決意を固めた。

「桜田さんは今でも、奥さんの早百合さんのことを愛しているの?」

「ああ、今までも。これからもずっとな……」

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