助手席にピアス
支離滅裂になっている私を見て、桜田さんはクククッと笑う。
「大丈夫だろう。早百合はお前と違って鈍感じゃないから」
「もう! さっきは早百合さんに似ているって言ったじゃない!」
桜田さんは反論する私には目もくれずに、商店街の花屋さんで買い求めた、白いユリと薄紫色のトルコキキョウの花束を供えた。
「俺は雰囲気のことを言っただけだ。こんな鈍感な奴と一緒にしたら早百合が可哀想だ」
口悪く言いつつも、桜田さんの横顔はどこかうれしそうな笑みが滲み出ていた。
久しぶりに奥さんと会ったからかな……。
改めて両手を合わせて瞳を閉じた私の背後で、桜田さんは早百合さんとの過去をポツリと語り始めた。
「製菓学校を卒業した俺と早百合は洋菓子店に就職をした。そこで数年間働いた俺は、迷わず早百合にプロポーズをした」
どこで、どんな風に、どんな言葉でプロポーズしたの?
根掘り葉掘り聞き出したい衝動に駆られたけれど、それは桜田さんと早百合さんだけの大切な思い出。
ふたりの思い出に土足で足を踏み入れるのは失礼だと思った私は、黙ったまま桜田さんの話に耳を傾けた。
「結婚と同時に独立をしてガトー・桜をオープンさせた。初めのうちは苦労したがふたりの夢が叶って、今思えば一番幸せな時だったかもしれない」