助手席にピアス
遠くを見つめながら、淡々と過去を語る。
桜田さんの話を聞きながら、ガトー・桜の厨房でふたりが仲睦まじくケーキを作っている姿を想像してみた。けれど、桜田さんの震える声を耳にした途端、現実に引き戻される。
「でもな、店がオープンしてすぐに早百合が体調を崩したんだ。疲れが溜まっているだけだからと言い張っる早百合を強引に病院に連れて行った時には、もう手遅れの状態だった」
そう……。ここは早百合さんが眠る霊園。
もう桜田さんの口から、その先のことなど聞かなくてもわかったし、これ以上、辛い過去を語らせたくはなかった。
「早百合さん。私、朔ちゃんのウエディングケーキを一生懸命作ります。だから応援してくださいね」
まるでこの言葉に応えるように、穏やかな風が私と桜田さんの頬を優しく撫でる。姿形は目に見えなくても、桜田さんと早百合さんの固い絆を感じ取った。
「早百合。また来るよ」
桜田さんは名残惜しそうにそう呟くと、早百合さんが眠るお墓に背中を向け、足を進める。
そして私も早百合さんに「さようなら」と挨拶をすると、桜田さんの後を急いで追った。