助手席にピアス
つい最近まで、私は桜田さんのの彼女だったはず。いわば元彼に向かって、琥太郎へプレゼントするチョコレートを表現することを、ちょっぴり恥ずかしいと思いながらも「ハートの……チョコ」と打ち明けた。
すると桜田さんは棚の奥から、ひと口大のハート模様が並んでいるチョコレート型を取り出す。
「まずはテンパリングだな」という桜田さんの言葉に、私は怯んだ。
だって、そこまで本格的なチョコレートを作るつもりなんかなかったから……。
「やっぱりテンパリングしなくちゃダメですか?」
「お前……まさか本命チョコを手抜きしようと思っているのか?」
桜田さんの冷ややかな視線を感じた私は「ま、まさか!そんなこと思う訳ないじゃないですかぁ」と冷汗を掻きながら、チョコの塊に手を伸ばす。
そして、そのチョコを細かく刻むとテンパリングを開始する。まずは刻んだチョコレートを湯せんで溶かしながら、温度を上げる。そして温度が上がったら、今度は氷水で冷やしながらかき混ぜ、温度を下げる。
温度計と格闘しながら行うテンパリングは、おいしいチョコを作るためには欠かせない作業。これを怠ると、風味や口どけが悪くなり、光沢がないチョコレートができてしまうのだ。