助手席にピアス
さっきは黒のフレアワンピース姿の私を大人っぽいと褒めてくれたばかりなのに……。
ちょっぴり頬を膨らませる。
「朔ちゃんは莉緒さんと観覧車に乗ったことあるの?」
「うん、あるよ。莉緒と一緒に乗った時は夜だったけどね」
恋人と観覧車に乗るなら、やっぱり夜の方がロマンチックだよね……。
観覧車から見える、幻想的な風景を想像してみる。
「うわぁ、いいなぁ。夜景が綺麗だったでしょ?」
「……正直言うと、夜景のことはあんまり覚えていないんだ」
宝石を散りばめたような東京の夜景を覚えていないなんて、信じられない。
「え? どうして?」
「あることに夢中だったから」
「あること?」
朔ちゃんはハンドルを握りながら、クスクスと笑い出す。
「雛子ちゃんは相変わらず鈍感だね」
「だって、わからないんだもん」
唇を尖らせて文句を言うと、朔ちゃんはしばらく考え込む。
「んー、困ったな……。じゃあ今度、琥太郎に聞いてごらん? きっと耳を赤くするから」
「もう……ますます意味わかんない」
ついさっきまでは観覧車のことで頭がいっぱいだったのに、朔ちゃんの口から琥太郎の名前が飛び出した途端、胸がドキリと大きく跳ね上がった。
折角、朔ちゃんに会って嫌なことを忘れられたばかりなのに……。
残念な結果になってしまったバレンタインデーを思い出してしまった私は、ため息を小さく吐き出しながら、助手席の窓の外に流れる景色を見つめた。