助手席にピアス
「おはようございます」
「ああ、おはよう。早速だが生地を頼む。計量は終わっている」
「はい」
クリスマスに作ったブッシュドノエルは、桜田さんが生地を焼いたけれど、今日のウエディングケーキは私が生地を焼くことになっている。
今まで練習を何度も重ね、納得のいくスポンジケーキが焼けるようになった。でも今日は絶対に失敗は許されないと思うと、自然と肩に力が入ってしまう。自分でも緊張していることがわかる。
「おい、そんなにカチコチになっていたら、スポンジまで固くなるぞ」
「えっ? 本当に?」
驚きながら桜田さんを見つめる。
「いや……まさか冗談が通じないほど緊張していると思わなかった」
桜田さんの冗談は決しておもしろくはなかった。でも冗談を言って、私をリラックスさせようとしてくれたことは、充分に感じ取ることができた。
「桜田さん、ありがとう」
「いや……」
耳を赤くして生クリームを泡立て始めた桜田さんの気遣いをうれしく思った私は、朔ちゃんと莉緒さんが喜んでくれる顔を想像しながら、作業を再開させた。