助手席にピアス

心から幸せそうな朔ちゃんと莉緒さんの姿を見た私は、また感動して涙が溢れ出てしまった。

「あ~あ、泣いちゃった。琥太郎、お前が責任を持って雛子ちゃんを慰めること。これは兄である僕からの命令。いいね?」

「はぁ? 兄貴にそんな命令されなくても、そうするし! ほら、雛。行くぞ」

「え? あっ……」

琥太郎は私の手首を掴むと、ロビーを横切り、角を曲がった。

涙で揺れる視界に映り込むのは、琥太郎の後ろ姿。その大きな背中について行くために、必死で小走りをする。

「こ、琥太郎、ちょっと待って……あっ」

普段履き慣れていないヒールのせいで転びそうになると、ふわりと身体を引き寄せられる。

「雛は本当に泣き虫だな」

転びそうになった私が辿り着いたのは、琥太郎の胸の中だった。力強い腕が私の背中に回る。

「琥太郎……」

琥太郎の腕に徐々に力がこもっていくのを感じていると、私たちの身体は簡単に密着した。この場所はロビーから死角になっているし、行き来する人の姿もない。

広くて頼りがいがある琥太郎の胸に甘えるように頬を寄せると、そっと瞳を閉じた。

少しだけ早く動く琥太郎の鼓動の音が聞こえる。

私だけじゃないんだ。琥太郎もドキドキしている……。

お互いの気持ちが一緒だと言うことがうれしくて、琥太郎の心音に耳を傾けた。でも……。

< 232 / 249 >

この作品をシェア

pagetop