助手席にピアス
キスよりも、身体を重ね合った行為よりも、甘い言葉を耳にした私の頭に浮かんだのは、結婚の二文字。
「琥太郎……もしかして、それってプロポーズ?」
「ん? ま、まあな」
こんなに早く、初めて結ばれた後のベッドの上で、しかも裸のままで……。
プロポーズをされると思ってもみなかった私の心に、驚きと喜びが入り混じった気持ちがスッと染み込み、思わず涙を流しそうになった。
けれど私は肝心なことを、琥太郎に伝えていない。
「琥太郎。言うの忘れていたんだけど……あのね。私、三月いっぱいでハニーフーズを辞めて実家に戻るの」
琥太郎は腕枕をしていた腕を引き抜くと、勢いよく上半身を起こす。
「はぁ? なんで?」
「実家から車で三十分くらいの距離にある森のお菓子屋さんってお店で、四月から働くことが決まったから」
目を丸くし、口をポカンと開けて、驚きの表情を浮かべる琥太郎の姿を見たら、罪悪感で胸がチクリと痛む。
「自分が自分らしく幸せに生きていこうと思えたのは、琥太郎のお蔭だよ。それなのに、相談もしないで勝手に決めてゴメンね」
上半身を起こしたまま私を見下ろす琥太郎の首に両腕を回すと、謝罪の意味を込めて頬に短いくちづけを落とす。