助手席にピアス
なに?
助手席のフロントシートに顔を寄せて、光を放つモノに手を伸ばして摘み上げてみれば、心臓がドキリと大きな音を立てる。
どうしてこんな場所に? こんなモノが?
そう思わずには、いられなかった。
「雛子? どうした?」
「……」
どうしたも、こうしたも、ないでしょ。
そう言い返したいのに、ショックで言葉に詰まる。
取りあえず大きく息を吸い込むと、フロントシートから拾い上げたモノをギュッと握りしめて助手席に乗り込んだ。
「雛子。シートベルト」
「……」
「雛子?」
シートベルトを締めるどころではない私は、亮介に向き合うと握りしめていた手のひらを開いた。
「亮介。これが助手席に落ちていたんだけど……」
私が助手席のフロントシートから拾い上げたのは、ピアス。
もし、このクロスのシルバーピアスがオシャレなショップでディスプレイされているのを目にしたら『かわいいぃ~』と、はしゃいでいた。
でも、助手席から拾い上げたピアスを見ても『かわいいぃ~』などという感情は、一ミリも湧き上がるわけなかった。
私はピアスをしていないから、よくわからないけれど……。
そもそもピアスって、そんな簡単に外れないモノでしょ? しかも都合よく、車の助手席なんかに。