助手席にピアス
「本当に浮気していない?」
「ああ」
「本当に私だけが……好き?」
「ああ。俺は雛子だけが好きだよ」
亮介の大きな手を握りしめて見つめ合うと、次第に気持ちが落ち着いていった。
「雛子、俺を信じてくれる?」
「もちろん信じる。疑ったりしてごめんね」
「いや。俺も雛子を不安にさせて悪かったよ」
亮介が口にする言葉は、いつも優しい。そして、その言葉が紡がれる唇は、熱く情熱的だ。
運転席から助手席側に身体をずらした亮介の顔が、ゆっくりと近づいてくる。その意味をすぐに理解して瞳を閉じると、ふたつの唇が隙間なく重なった。
「……ぅん」
仲直りの短いキスだったにもかかわらず、思わず声が漏れてしまう。
「雛子って敏感」
「ちょ、ちょっと、変なこと言わないでよ」
まだお昼前だと言うのに、ちょぴりエッチなことを言う亮介を軽く睨む。けれど、私の視線などまったく気にしない亮介はニヤリと口角を上げた。
「今夜が楽しみだな」
亮介は優しいくせに、時々、意地悪なことを言って私をからかう。
どんな返事をしたらいいのかわからない私は、ただ曖昧に微笑むだけで精一杯だった。
亮介が到着してすでに二十分が過ぎてから、ふたりを乗せた車はようやく目的地に向かって走り出す。
私の二十四歳の誕生日は、きっと一生忘れられない記念日になる。
そう思いながら、ハンドルを握る運転席の亮介の横顔を熱く見つめた。