助手席にピアス
「こんなの頼んでない……よね?」
ケーキを運んできたウエイターから視線を逸らして、向かいの席の亮介を不安げに見つめる。すると亮介は、クッキリとした二重の瞳を細めて微笑んだ。
「雛子、誕生日おめでとう!」
「……!!」
まさかのサプライズに驚き、声を失っていると、あっという間にテーブルに人が集まり出す。レストランのウエイトレスにコック帽を被ったシェフらしき姿の人たちが私たちのテーブルを囲むと、声を合わせて歌い始めた。曲はもちろんバースデーソング。
歌が終わりロウソクの火を吹き消すと、レストランにいたお客さんまでもが、にこやかな笑みを浮かべながら拍手を送ってくれた。
「ありがとうございます」
イスから立ち上がり、みんなに向かってお辞儀をすると、さらに大きな拍手に包まれた。
こんなに素敵な誕生日は初めてだよ……。
うれし涙が込み上げてきた時、亮介がテーブルの上にブルーの箱をコトンと置いた。
「雛子。改めて誕生日おめでとう」
本当なら彼氏から誕生日プレゼントをもらったら、喜びに満ち溢れるはず。それなのに私は、無理に口角を上げると、懸命に笑顔を作った。
その理由はテーブルの上に置かれたブルーの箱がひと目見ただけで、アクセサリーケースではないとわかってしまったから。