猫に恋する、わたし
わたしは音を立てないよう静かにフォトスタンドを床に伏せた。
今はお姉ちゃんの顔を見たくない。
この空間にお姉ちゃんを感じたくない。
ずっと前のわたしだったら、こんなこと思わなかったのに。
彼に会う毎に、どんどんわたしの気持ちは膨らんでいく。
これが風船だったらとっくに破れてるか、空までぷしゅーって飛んでいってしまうぐらい。
「お姉ちゃんはいいな」
わたしは呟いた。
彼に愛されて。
好きな人と結ばれて。
それってどんなに幸せなことなんだろ。
「珍しい。羽生伊織が男と笑ってる」
菜々緒の視線を追うと、渡り廊下でブラックフードを被った彼がクラスメイトと輪になって屯しているのが見えた。
長身の彼はその中でも一際目立っている。
屈託のない笑顔に、横を通る女の子たちがみんな彼に釘付けだ。
「そりゃ笑うでしょ」とわたしは苦笑いしながら、菜々緒が食べているポッキーから一本抜き出した。
「だってさ、女以外に笑ってるイメージないし。それに一部の男から嫌われてるじゃん。ま、負け犬の遠吠えというか、自分の彼女を羽生伊織に寝取られて、ちゃんと鎖繋いでなかった自分が悪いのにキャンキャン騒いでる自業自得ヤローばっかだけどねー。男の妬みは怖い怖い」
あっ、と菜々緒は視線を上げる。
「噂をすればその中の一人がやってきた」