猫に恋する、わたし
「うん。菜々緒こそ」
「忘れ物しちゃったんだよねー、あったあった」
そう言って、机の中からミニーのキーホルダーがついた家の鍵を取り出した。
「ちょうどよかった。一緒に帰ろ」
わたしはスマートフォンをポケットにしまう。
彼からの返事はなかった。
「いいけど、用事あったんじゃなかったの?」
「ううん。やっぱりいい」
すると、何かを察したように菜々緒がじっとわたしを見つめていった。
「…羽生伊織?」
間を置いて、わたしは小さく頷いた。
「本妻が行くみたい。愛人の出る幕ないって感じ」
自虐的に笑っていたら、菜々緒は大きくため息を吐いて、わたしの頭をポンと軽く叩いた。
「しゃーない。愛人ていうのは納得いかないけど、愚痴聞いてやるか!どこ行きたい?」
「…カラオケ」
「おっしゃ。恋チュン歌ってあげる」
ふふ、とわたしは笑う。
「ありがと」
「どういたしましてー」