嗤うケダモノ
人前でなんて泣きそうにないヨコタさんの目から、涙が一粒零れ落ちた。
柔道部員たちは唇を噛んで彼女から目を逸らした。
本当はみんなわかっている。
誰かのイタズラである可能性が高いコトを。
それでも、残りの小指の先ほどの可能性だったとしても。
信じたいのだ。
愛する人が。
尊敬する人が。
まだ傍にいて、自分たちに語りかけてくれているコトを。
たとえその内容が、亡き人にそぐわないモノだったとしても。
信じていたいのだ。
両手で顔を覆って嗚咽を漏らしはじめたヨコタさんの肩に、日向が手を伸ばす。
躊躇いがちに触れて。
やがて強く抱きしめて。
静かにヨコタさんの髪を撫でる日向の瞳からも、悲しみが溢れ出しそうで…
大丈夫。
そんな顔しないで?
放り出したりしないから。
君を笑顔にしてみせるから。
毒を食らわば皿まで。
ソレが男のケジメでショ?
「イタズラって断定すンのは、まだ早いと思うヨー?
ねェ? 確かめてみない?」
軽いノリで出された提案に顔を上げた全員が、目を丸くして由仁を見た。
長い足を組んで、ついでに腕まで組んで、彼は妖しく嗤っていた。