嗤うケダモノ
それは、さっきまでの足を庇った不便そうな動きとは明らかに違う。
日向が危惧した通り、やはりAくんの捻挫はとっくに完治していたのだ。
痛みなどこれっぽっちも感じない両足に、鍛え上げた両腕に、渾身の力を込めて重なりあう畳を押す。
倉庫の角に向けて。
由仁に向けて。
ドォォォン…
轟音を上げて倒れた畳の束が、倉庫中の埃を舞い上がらせた。
(やった…)
Aくんは視線を落とし、自らの震える両手を見つめた。
大丈夫。
すぐに助け出せば、死ぬことはない。
大丈夫。
これでみんなが呪いを信じる。
今すぐ誰かを呼びに行って。
急に倒れてきたとか言って。
いやいや、待て待て。
その前に、『コレが呪いを信じないヤツへの制裁だ』なんてメールを‥‥‥
Aくんは深呼吸を繰り返しながら、学ランの内ポケットから携帯電話を取り出した。
ソレは彼のモノではない。
ヨコタ先輩の葬儀の日、つい出来心で持ち帰ってしまった携帯だ。
使うつもりなんてなかった。
てか、すぐに使えなくなると思っていた。
だけど…
だけど…