嗤うケダモノ
一昨日、空狐がまだ源翁庵にいる杏子を訪ねると、彼女は言った。
『露天風呂で背中流してやろうか?
水着は着るケドね』
昨夜、空狐が由仁の傍に姿を現すと、彼は言った。
『ジーチャン、肩叩きしたげるー
力加減はわかんないケドー』
…
ナンダ、コレ?
絶対、ナンカ察してンだろ。
ナニも、一言も、言 っ て な い の に!
全く…
ほんとに食えない親子だ。
「言ってはおらんが、知っとるようじゃ。
なんか悔しかったから、ソレはヒナちゃんにやるコトにしたンじゃよ。」
長い顎髭を指でイジイジしながら、空狐は唇を尖らせた。
ジジィのクセに無駄にカワイイな、おい。
その上、親切。
なんだかんだ言って、いつも気にかけてくれてる。
そんな空狐が、ドコカに行ってしまうなんて…
「寂しくなっちゃいますね…」
手元に視線を落とした日向は、ポツリと呟いた。
サラリと揺れたセミロングの黒髪に、小さな手が伸びる。
「ヒナちゃんは優しいのぉ。
…のぉ、儂の懺悔を聞いてはくれんか?」
ひょいと飛び上がって日向の頭を撫でながら、空狐は声を落として言った。