例えばここに君がいて
 そんなこんなでたどり着いたのは、葉山家がはいっているマンション。
慣れた調子でエレベーターに乗り込む双子を羨ましく眺める。

無邪気というのは素晴らしい。
俺だってこの年頃だったら、何も考えずにただ楽しみにできるんだろうけど。

いざ家の前まで来たら、急に怖気づいてきた。
いきなり俺がやってきたら、サユちゃんドン引きしたりして。

いや、そうやってマイナス思考に陥るのはよくない。

これはチャンスだ。
学校ではなかなか二人きりになれないけど、ここでならゆっくり話せるはず。
ああでも、サユちゃんがいないってことも考えられるんだよな。だって俺を待っているのはサイジだもんな。

頭の中で堂々めぐりしていると、ルイが不審そうに覗きこんでくる。


「なんで止まってるのお兄ちゃん。早く入ろうよ」

「いや待て、心の準備ってやつが必要だ」


なんてったってショックを与えたら死んじゃいそうなほど心臓バクバクしてっから。


ピンポーン。
俺の決意が固まる前に、無言のイッサによってあっさり押されるチャイム。


「おま、おま、お前っ」

「早くサイジと遊びたい」

「ちょっと待てって言っただろうー!!」


頭を抱える俺をよそに、インターホンからは女の人の声が聞こえてくる。


『はい?』

「あ、ルイです。遊びに来ました」

『いらっしゃい。今鍵開けるから』


お母さんかな。落ち着いた声だし。
と思って見たら扉を開けたそこに居たのは、プリントの長袖Tシャツにグレーのスカートを履いているサユちゃんだった。

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