復讐

第一章

１

安田は苛立っていた。
理由は三井だ。

あれほど勝手に店に来るなと言っていたのに、三井は準備中の時間を狙って店に来た。

彼がどこで、幸治が働いている事を耳にしたのかは知らないが、安田は必死で幸治の存在を隠していたのにだ。

しかも、こともあろうか自分は犯人ではないとまで言い出した。

しかし、安田の苛立ちの理由はそれだけではなかった。

「運転手さん。停めてくれ」

「え？お客さん、目的地はもうそこですよ？」

「いいんだ。外の空気を吸いたいから」

「そうですか。かしこまりました。では、こちらで」

タクシーの運転手は、そう言うとすぐに車を停めた。

「１８００円になります」

安田は財布から２千円札を出した。
２千円札はなかなか使い勝手が悪く、安田はそれを毛嫌いしていたのだが、偶然ATMから出てきてしまったため、早く使ってしまいたいという思いから出した。

「あれ？２千円札ですか？珍しいですね。久しぶりに見ましたよ」

運転手は、まだまだ話したそうなそぶりを見せたのだが、安田はそれを軽く流した。

「そうだな。あ、領収書くれ」

「あ、はい。いまお出しします」



タクシーから出た安田は小さく深呼吸をすると、目的地の家とは逆方向に、つまりは今来た道を戻るように歩き出した。

そして十字路を右に曲がると、曲がってすぐの所に停めてある、白の軽自動車に近寄った。

そして安田は、その運転席の扉を勢いよく開いた。
「てめぇ、どういうつもりだ？」

そう言うと、そのまま運転席に体を突っ込み、運転手の胸倉を掴んだ。

「家まで、つけてくるなんていい度胸してんじゃねぇか三井。あぁ？こら」

すると三井は、胸倉を掴む安田の手首を掴み、彼を睨み返した。

「別にあんたの家には興味ないよ。安田さん。今度は、あんたに用があって来たんだよ」

「おれに？」

「あぁ。まぁ、とりあえず乗って下さいよ」

三井はそう言うと、不敵な笑みを浮かべ、親指で助手席をさした。