復讐
「ちょっと待って下さいよ。落ち着いて下さい」

男性は後ずさりそう言うと、幸治を見て言った。

「キミ!君は、仲辻幸治くんだろ。君に話があって来たんだ」

安田は、尚も彼を追い払おうと怒鳴り付ける。

「うるせぇ!こっちはてめぇに用なんてねぇんだよ」

男性も負けずに、幸治に声を掛ける。

「君のお母さんの事で話があるんだ」



「お母さん?」


「そう。お母さんだ。仲辻雪乃さんだ」


「安田さん!やめて」


「なに言ってんだよ。こいつは税務署の奴なんだよ。お前には関係ねぇんだよ」

「税務署?」

男性は、迫り来る安田を押さえながら聞いた。

「いいから、安田さん!その人はおれに用事があるみたいだし、おれが聞くよ」

「でもなぁ、お前。お、おい幸治」

幸治は安田の制止も気にせず、その男性に近付いた。

「僕が仲辻幸治です。税務署の方じゃないですよね?どうぞお掛けになって下さい。」

男性はそれを聞くと、少し誇らしげな表情で安田の手を解き、一番近くのボックステーブルに腰掛けた。

「初めて座らせてもらったよ。いいソファーだね」

男性はそう言うと、正面に座る幸治と安田に名刺を差し出した。

安田に関しては、相変わらずそっぽを向いたままで、話し合おうという気はさらさらないように見える。

名刺には、株式会社相創保険 営業課 園田友一と書いてあった。

「保険会社の方ですか?」
幸治は少し怪しい目つきで彼を見た。

彼は「おっと失礼」と言い、もう一枚名刺を出した。

もう一枚の名刺には、フリーライター 三井 慎二という名が書いてあり、幸治は訳が分からなくなった。

「すいませんね。さっきのは外向き用でして。本当はこっち」

彼はそう言うと、三井慎二のほうの名刺を指さした。

「三井さんですか。でもどうして?」

「まぁ、色々あるんですわ。ね、安田さん」

「うるせぇ。知らねぇよ」

三井は、安田を一瞥すると、小さく溜息をつき続けた。
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