イジワルな彼の甘い罠
「ちょっと航!?なんでここにっ……」
部屋に入りすぐ声をあげた私に、航は「シッ」と口を押さえ黙らせる。
はっ!そうだよね、皆が追いかけてきたら余計事態がごちゃごちゃになる。
そう言葉を飲み込むと、航は耳を澄ませ周囲に誰か来ていないかを確認すると、そっと私から手を離した。
見渡せばそこは今日は使われていない一室らしく、電気もついておらず太陽も差し込まない室内は薄暗く少し寒い。
「……で、どうして航がここに?」
「なんでもなにも……ここ、実家だし」
「は!?」
じ、実家!?
驚きまた大きな声が出てしまい、はっとした私は再び自分の口を塞いだ。
そんな私を航は呆れたような目で見る。
「店の看板に『料亭 遠野』ってあっただろ。ちなみに今は兄貴が跡継いでる」
そういえば、航の姓も遠野だった……ってことは、さっきの人は航のお兄さん!?
どうりで見覚えのある顔なわけだ……愛想の良さは真逆だけど。
思えば少し似ている顔を思い浮かべながら、どうやら航が来やすいように部屋の外へ誘い出したのだとさとる。