イジワルな彼の甘い罠
「……飯より、先にこっち」
耳元で小さく囁く低い声が、ゾク、と全身に伝う。
その感覚ひとつで、ああもうダメだ、あと数時間は夕飯はお預けだと観念する。
力の抜けた手からショルダーバッグは床に落ち、冷たいフローリングに、ドサッと小さな音が響いた。
それを合図にするように、もう一度重ねられる唇と、絡む舌。
息継ぎすらさせてくれないその容赦のないキスに溺れ出した頃には、体はもうされるがまま。抵抗することなくベッドへ押し倒される。
「……ん、ちょっと……スーツ、シワになる……」
「スーツの心配するなんて、余裕だな」
「だって、」
「……そんな余裕、なくしてやるよ」
舌の先で首筋を舐めながら、外されていくシャツのボタン。
上着、シャツ、スカート、一枚一枚脱がされるうちに、他人には絶対に見せられない、あられもない姿になっていく。
それと同時に、体の奥で興奮が高まるのを感じた。
……不思議。
唇を合わせて体を重ねる。それだけで、“ただの他人”が“男女”になるのだから。
私と彼を繋ぐ糸が、今夜もこうして紡がれていく。