いとしいこどもたちに祝福を【前編】
大陸の海岸線に沿って広がる、炎夏の国。

南の大陸にあるこの中小国は年間の殆どが晴天に恵まれた熱帯地域である。

そんな国の上空に、今日は珍しく鈍色の雲が広がっていた。

――雨は、嫌いだ。

雨の降り頻る空を傘越しに見上げて、晴海(はるみ)は碧い眼を細めた。

母が働く喫茶店へ忘れ物を届けに赴いた矢先、空模様が怪しいと思った途端に大粒の雨が降り出してきたのだ。



「珍しいくらい景気良く降ってるね。どうする晴、暫く此処で雨宿りしていく?」

「ううん、なかなか止みそうにないし、先に帰る。傘だけ借りてもいい?」

「大丈夫?何だか雨雲のせいで暗くなってきたから、気をつけて帰るんだよ」

「もう、子供じゃないんだから大丈夫だよ。夕飯作って待ってるから仕事頑張ってね、母さん」



母とそんな遣り取りをして、店を後にした。

予報より先立って降り出した雨に、傘を持たない通行人は雨露を避けるため慌ただしく駆け抜けてゆく。

(…ああ、お昼どきだからこんなに人が多いのか)

人の多い場所が苦手な晴海は憂鬱な気分で、擦れ違う人々と衝突しないよう少し気を付けながら足を運んだ。

暫く街道を歩いて行くと、表通りと裏道の分かれ道に差し掛かり、ふと立ち止まる。

裏道を通ると近道になるが、暗くて人気が少ないので夕刻や夜間に一人ではあまり通らない。
< 3 / 367 >

この作品をシェア

pagetop