はじまりの日


その後の事は、正直良く覚えていない。


人間はあまりにも耐え難い経験をした時に、その記憶を自分の脳内から抹消するという話を聞いた事があるけれど、まさに俺はそんな状態だったんだろうか。


だけどその割には、中途半端な記憶の喪失だった。


……どうせ忘れるなら、すべてを忘れ去りたかったけれど、どうやらそれは許されなかったらしい。


出勤途中の事故だった。


「右折車のトラックの、死角に入ってしまったようですね。自転車ごと数メートル撥ね飛ばされまして、路上に強く、後頭部を打ち付けたようです。死因は脳挫傷でした。ここに搬送されて来た時にはもう……」


「手帳に書いてあった勤務先の欄を見て、警察が局に電話して来たんだ。その後お前のポケベル何度も鳴らしたんだぞ。だけど全然連絡寄越さないから……」


お袋と共に病院にたどり着いた時にはすでに息絶え、ベッドに横たわっていた雪さんの亡骸や、その時に耳にした医師や職場の上司のセリフが、ランダムに頭の中で再現される。
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