はじまりの日
……目の前のこの人達にそんな酷い仕打ちをする権利なんか、俺にはないのに。


自分で自分の言動に迷いが生じて自信を無くし、白旗を揚げて降参しそうになった、その瞬間……。


「はじめお兄ちゃん……」


ふいに、さっちゃんの声が耳に届いた。


慌ててその方向に視線を向けると、リビングの戸口に、泣き笑いのような表情を浮かべ、もじもじしながら立つ、彼女の姿が。


「まぁ、さっちゃん」


お母さんが、ちょっと焦ったような声を発しつつ立ち上がり、素早くさっちゃんに近付く。


「お二階で、お人形さんと一緒に遊んでなさいって、言ったでしょう?」


「でも、はじめお兄ちゃんの声が聞こえたから……」


肩を抱こうとしたお母さんの手をスルリとすり抜けて、さっちゃんはトトト、とこちらに駆け寄って来ると、「よいしょ」とソファーによじ登り、俺の膝の上にチョコンと腰かけた。


その重みと温もりを受け止めた瞬間、何とも言えない気持ちが込み上げて来る。
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