Taste of Love【完】

帰りの車の中で、風香はほとんど言葉を発しなかった。

(最近仕事に集中できてないことは、分かってた。まさかこんなミスするなんて)

 小さなため息を何度も繰り返す。

「会社に着いたぞ、そろそろそのため息やめない?」

 翔太に突っ込まれて、風香は自分が何度もため息をついていたことに気が付く。 

 車はちょうど会社の地下駐車場に入ったところだ。

「あ、ごめんね。なんか久々に間抜けなミスしてちょっと落ち込んでる」

「最近どうした?なんか仕事“から回り”してるけど」

 どうにか、こなしているつもりだったが翔太にはばれていたようだ。

「別に……何でもないんだけど」

ここで素直に聞ければいいのに、それができない自分にイライラする。

「もしかして、俺の噂話聞いた?」

 突然核心をつかえて、答えることができない。

「なーんてちょっとうぬぼれて……」

「……ほ、んとうに? お見合いするの?」

 緊張で最初の声が出ない。それでも風香は、今チャンスをのがしたら聞けないような気がした。

 まっすぐ見つめると、翔太が頭をかきながら風香の質問に答える。

「やっぱり、聞いたのか? お見合いって言っても一度会うだけだよ。別に俺がしたくてするわけじゃない。何度か断ったけど、会うだけでもって専務に言われたら無下にできないだろ」

 顔に“まいったな”と書いてある。
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