Taste of Love【完】
しかし風香にとっては、仕事に支障をきたすほど、気に掛けていた翔太の見合い話が、本人の口から真実だと聞かされたのだ。
(あの日私に告白したのに、お見合いするの?)
心の内ではそう思っていた。でも口から出た言葉は全く異なるものだった。
「相手は横山専務のお嬢さんなの? だったら断れないよね。よかったね、専務の奥様美人だって噂だから、きっ
と娘さんも……」
「風香はそれでいいの?」
「え?」
「お前は、俺が見合いしても何とも思わないのか?」
「……だって」
「少しも心配してくれないんだな」
先ほどとは違い、明らかに翔太の声色が変わる。
(だって、翔太に干渉する権利なんてない)
そう伝えようとしたけれど、それも口からは出てこない。
普段おしゃべりな風香のこの口は、いざというとき、いつも役に立たない。
「風香の不調の原因が俺のお見合いだったらって内心思ってた。上司としてはダメなんだけど男としては、そう
だったらいいなって」
「翔太……」
「だけど実際は、俺の見合いなんてどうでもいいだな」
「どうでもいいなんて、言ってない!」
「でも実際そうだろう。お前にとって、俺って一体どんな存在なんだ?」
「どんなって……」
「いや、ごめん。こういうこと聞くつもりじゃなかったんだ」
翔太は綺麗にととのえられていた髪を、ガシガシとかいた。