Taste of Love【完】

しかし風香にとっては、仕事に支障をきたすほど、気に掛けていた翔太の見合い話が、本人の口から真実だと聞かされたのだ。

(あの日私に告白したのに、お見合いするの?)

心の内ではそう思っていた。でも口から出た言葉は全く異なるものだった。

「相手は横山専務のお嬢さんなの? だったら断れないよね。よかったね、専務の奥様美人だって噂だから、きっ
と娘さんも……」

「風香はそれでいいの?」

「え?」

「お前は、俺が見合いしても何とも思わないのか?」

「……だって」

「少しも心配してくれないんだな」

 先ほどとは違い、明らかに翔太の声色が変わる。

(だって、翔太に干渉する権利なんてない)

 そう伝えようとしたけれど、それも口からは出てこない。

 普段おしゃべりな風香のこの口は、いざというとき、いつも役に立たない。

「風香の不調の原因が俺のお見合いだったらって内心思ってた。上司としてはダメなんだけど男としては、そう
だったらいいなって」

「翔太……」

「だけど実際は、俺の見合いなんてどうでもいいだな」

「どうでもいいなんて、言ってない!」

「でも実際そうだろう。お前にとって、俺って一体どんな存在なんだ?」

「どんなって……」

「いや、ごめん。こういうこと聞くつもりじゃなかったんだ」

 翔太は綺麗にととのえられていた髪を、ガシガシとかいた。
< 106 / 167 >

この作品をシェア

pagetop