Taste of Love【完】
翌日風香は、昼休みに翔太を呼び出した。
呼び出した調理室は午前中に松林が作業をしていたものがそのまま残されていた。
「どうしたんだ? なにかトラブルか?」
昼休みにわざわざ呼び出して話をするくらいだ。翔太は何か重大な話があると思っているのだろう。
「お見合いしなかったって本当?」
唐突に話を初めた風香に、翔太は一瞬驚いた様子だったが、すぐに顔を綻ばせた。
「なんだ、そんなこと……」
「そんなことって、翔太それで海外に飛ばされるって」
必死の風香をよそに、翔太は笑い始めた。
「その話どこから聞いた? 飛ばされるって」
「出所はどこでもいいの。この話本当なの?」
不安の色を目に浮かべる風香に、翔太が優しく諭すように話す。
「半分は本当で、半分はでたらめ」
「どういうことなの?」
「海外に行くっていうのは、本当だ。だけど飛ばされるんじゃない。俺がサニーエイトに引き抜かれた最初の条件が、海外支社で仕事をすることだったからはじめから決まってたことなんだ」
不安そうな風香の頭に、手をポンッと置いた翔太は優しく撫で始めた。
「だから、飛ばされるっていうのは間違い。第一横山専務は仕事に私情を挟むような人じゃない。風香だって知ってるだろう」
社内でも人望があって、仕事ができる横山専務だ。冷静になれば風香だってそのくらいはわかる。
だが、その考えにたどり着かないほど風香は取り乱していたのだ。