Taste of Love【完】

「そうだったんだ」

「見合いしなかったのは、俺の意志だ。お前がそんな顔する必要ない」

 そうは言っても、風香は自分にも原因があると思えてならなかった。

「でも、そんな話私には、してくれなかったじゃない」

「時期が決まったのは、つい最近。あっちのポストに空きがでたからな。しかしどこから聞いたんだよ、その話。早すぎるだろう」

 翔太は髪をかき上げながら、小さなため息をついた。

 話が横山専務側から流れてきたとは言えない。

「俺からちゃんと話をするつもりだったのにな」

「ごめん。びっくりして呼び出したりして」

 風香は肩を落とす。

「四月の人事異動の前までには、あっちに行く」

「そんなに早く?」

「あぁ、だから待つって言ってた答え、悪いけど早くほしい」

肩に手を置かれ、真剣な瞳が風香を射抜く。

「俺と一緒に、行かないか? ニューヨーク」

「一緒に? 私が」

 驚いて、目を見開く。どう答えていいのかわからない。

「そんなに驚くな。準備のために二月に一度あっちに行く。その時までに答えをくれないか?」

 翔太の真摯な態度に、風香も本気で答えを出さなくてはいけない時がきたと悟る。

「わかった。ちゃんと考えて答えを出すから」

「期待してる。さぁ、話は終わったぞ。早く戻らないと昼飯食う時間なくなるぞ」

「それは困るっ!」

 いつものふたりに戻って、調理室を出た。

 久しぶりに一緒にランチに行こうと、話をしながら歩いていたふたりだったが、目の前から走ってくる焦った様子の雅実の姿を見て、何事かと顔を合わせた。
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