Taste of Love【完】
「先輩!仕事は達成感と疲労を与えてはくれますけど、安らぎは与えてくれませんよ。もう二十八歳ですよね。そろそろモラトリアムは終わりにしないと」

(一体どっちが先輩なんだか。でも恋愛に関しては明らかに雅実ちゃんのほうが経験があるだろうな)

一人ぼーっと考えにふけっていると「聞いていますか?」と雅美の声がして風香は我に返った。

「先輩もったいないですよ。見かけだってそれなりだし性格だっていいのに」

―――それなり。風香によくつかわれる言葉だが自分でもそれがしっくりくる。

特におしゃれに気を遣っているわけではない。けれど仕事で着る服は自分の気分を上げるために厳選して選んでいるつもりだ。髪は額が少々せまいのが悩みなので常におろしている。胸まである髪には緩やかなパーマをかけて、カラーリングも控えめで仕事で忙しくて美容院に行けなくても大丈夫なようにしてある。

顔の作りも“それなり”だがいつも笑顔でいるようにはしている。女は愛嬌が座右の目だ。

「それって褒めてるの?けなしてるの?」

そう風香がいじけて見せると「両方です」とサラリと返された。

(おそるべし雅実ちゃん)

「それと室長なんですけど、社外からヘッドハンティングされてきた人が来るらしいですよ」

「そうなの?」

「もう、自分の異動で大変なのも分かるけど、社内に帰ったら社内連絡票もう一度チェックしてくださいね」

そう雅実に叱られて小さくなる風香だった。

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