Taste of Love【完】
他のメンバーも続々とやってくる。

風香は社内のメンバーの顔はほとんど覚えているので、顔と名前が一致せずに困るということはない。

松林を始め三年先輩の盛岡、一年後輩の佐々木、それに雅実と風香がこの開発室のメンバーだ。雅実と風香以外は全員男性でこれからスイーツを開発していく。

「あぁ、室長はいつ来られるんですか?」

雅実が一番年次の上の盛岡に声をかける。

「う~ん。たぶん今はお偉いさん達と話をしてるんだと思うからもうすぐ来ると思うよ。さっき声かけられたんだけど、女子が好きそうな甘いマスクだったよ~」

盛岡は、見かけ同様の優しい話し方で雅実の質問に答えた。

風香も自分のデスクの片付けがひと段落したので、雅実と一緒に資料作成をしていた。

コピーが済んだものをまとめてクリップで一まとめにする。

ようやく最後のひと束をクリップでまとめ終わりトントンと整えているところに声がかかった。

「さ~て、ミーティング始めるぞ」

聞き慣れない声が部屋の入り口からして思わず顔を向ける。

ヘッドハンティングされてきた室長だ。だから顔も名前も知らないはずの彼を、風香は知っていた。

いや忘れることができなかったというのが正しいだろう。

思わず手に持っていた資料をばさばさと全部落として、隣の雅実の呼びかけも耳に入らないほどに風香は動揺した。


「ど、どうして……」

驚きを隠せない風香をよそに、彼は「久しぶりだな」とにっこりと笑顔を向けてきた。

風香はこの時ほど大雑把な自分の性格を呪ったことはなかった。

(ちゃんと辞令見ておくんだった……)

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