Taste of Love【完】
***

風香は企画書のひな形をパソコンに映し出し見つめたままだった。

(どうしてこんなことになっちゃうの!?)

パソコンに向かっている表情は半泣きで、正直風香の頭の中では企画書どころの騒ぎではない。

急に異動になったことよりも、苦手なスイーツ企画に携わらなくてはならなくなったことよりも、彼―――三栖翔太の存在が風香の脳内を混乱させていた。

(休憩しよう)

いつまでもこうやって、ただ座っているわけにはいかない。気分を変えるために、同じフロアにある休憩ブースへと風香は足を運んだ。

フロアを出て気持ちを整理しながらゆっくりと足を運ぶ。

コツンとヒールの音が廊下に響いた。スイーツ企画室があるここは企画部がある五階の一つ上のフロア六階だ。会議室と調理室のみのフロアだったが新設の部署で場所の確保が難しかったのか会議室の一室が企画室に当てられている。

調理室が近いのは風香にとってはありがたかった。サンプルの作成はもちろん実際の企画についても調理しているうちにアイデアは思い浮かぶことが多い。

他の社員は会議の時ぐらいしか使わないだろうこのフロアの静けさが風香にはとても新鮮だった。

観葉植物とパーテーションに区切られた休憩ブースに到着して、硬貨を自販機へと入れる。

コトンと紙コップ落ちて来て、そこに液体が注がれる。ピーっという終了の合図が聞こえると風香は熱いその紙コップをやけどしないように注意深く自販機から取り出そうとした。
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